.\" Copyright (C) 2006 Michael Kerrisk .\" .\" %%%LICENSE_START(VERBATIM) .\" Permission is granted to make and distribute verbatim copies of this .\" manual provided the copyright notice and this permission notice are .\" preserved on all copies. .\" .\" Permission is granted to copy and distribute modified versions of this .\" manual under the conditions for verbatim copying, provided that the .\" entire resulting derived work is distributed under the terms of a .\" permission notice identical to this one. .\" .\" Since the Linux kernel and libraries are constantly changing, this .\" manual page may be incorrect or out-of-date. The author(s) assume no .\" responsibility for errors or omissions, or for damages resulting from .\" the use of the information contained herein. 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Library interface System call mq_close(3) close(2) mq_getattr(3) mq_getsetattr(2) mq_notify(3) mq_notify(2) mq_open(3) mq_open(2) mq_receive(3) mq_timedreceive(2) mq_send(3) mq_timedsend(2) mq_setattr(3) mq_getsetattr(2) mq_timedreceive(3) mq_timedreceive(2) mq_timedsend(3) mq_timedsend(2) mq_unlink(3) mq_unlink(2) .TE .RE .SS バージョン Linux では POSIX メッセージキューはカーネル 2.6.6 以降でサポートされている。 glibc ではバージョン 2.3.4 以降でサポートされている。 .SS カーネルの設定 POSIX メッセージキューのサポートは、カーネルの設定 (configuration) オプション \fBCONFIG_POSIX_MQUEUE\fP で設定可能である。このオプションはデフォルトでは有効である。 .SS 持続性 POSIX メッセージキューはカーネル内で保持される。 \fBmq_unlink\fP(3) で削除されなければ、メッセージキューは システムがシャットダウンされるまで存在し続ける。 .SS リンク POSIX メッセージキュー API を使用したプログラムは \fIcc \-lrt\fP でコンパイルし、リアルタイムライブラリ \fIlibrt\fP とリンクしなければならない。 .SS "/proc インターフェース" 以下のインターフェースを使って、 POSIX メッセージキューが消費するカーネル メモリーの量を制限したり、 新規のメッセージキューのデフォルト属性を設定したりすることができる。 .TP \fI/proc/sys/fs/mqueue/msg_default\fP (Linux 3.5 以降) このファイルは、\fIattr\fP に NULL を指定して \fBmq_open\fP(3) を呼び出してキューが作成された際に、 その新規キューの \fImq_maxmsg\fP 設定に使用される値を定めている。 このファイルのデフォルト値は 10 である。 最小値と最大値は \fI/proc/sys/fs/mqueue/msg_max\fP と同様である。 新規キューのデフォルトの \fImq_maxmsg\fP 値は \fImsg_default\fP と \fImsg_max\fP の小さい方となる。 Linux 2.6.28 より前は、デフォルトの \fImq_maxmsg\fP は 10 であった。 Linux 2.6.28 から Linux 3.4 までは、 デフォルト値は \fImsg_max\fP 上限で規定される値であった。 .TP \fI/proc/sys/fs/mqueue/msg_max\fP このファイルを使って、一つのキューに入れられるメッセージの最大数の 上限値を参照したり変更したりできる。この値は、 \fBmq_open\fP(3) に渡す \fIattr\->mq_maxmsg\fP 引数に対する上限値として機能する。 \fImsg_max\fP のデフォルト値は 10 で、 最小値は 1 (2.6.28 より前のカーネルでは 10) である。 \fImsg_max\fP に指定できる上限値は \fBHARD_MSGMAX\fP である。 \fImsg_max\fP 上限は特権プロセス (\fBCAP_SYS_RESOURCE\fP) では無視されるが、上限値 \fBHARD_MSGMAX\fP はどんな場合にでも適用される。 .IP \fBHARD_MSGMAX\fP の定義はカーネルのバージョンにより異なる。 .RS .IP * 3 Linux 2.6.32 以前: \fI131072\ /\ sizeof(void\ *)\fP .IP * Linux 2.6.33 以上 3.4 以下: \fI(32768\ *\ sizeof(void\ *) / 4)\fP .IP * .\" commit 5b5c4d1a1440e94994c73dddbad7be0676cd8b9a Linux 3.5 以降: 65,536 .RE .TP \fI/proc/sys/fs/mqueue/msgsize_default\fP (Linux 3.5 以降) このファイルは、\fIattr\fP に NULL を指定して \fBmq_open\fP(3) を呼び出してキューが作成された際に、 その新規キューの \fImq_msgsize\fP 設定に使用される値を定めている。 このファイルのデフォルト値は 8192 バイトである。 最小値と最大値は \fI/proc/sys/fs/mqueue/msgsize_max\fP と同様である。 \fImsgsize_default\fP が \fImsgsize_max\fP より大きい場合は、 新規キューのデフォルトの \fImq_msgsize\fP 値は \fImsgsize_max\fP 上限となる。 Linux 2.6.28 より前は、デフォルトの \fImq_msgsize\fP は 8192 であった。 Linux 2.6.28 から Linux 3.4 までは、 デフォルト値は \fImsgsize_max\fP 上限で規定される値であった。 .TP \fI/proc/sys/fs/mqueue/msgsize_max\fP このファイルを使って、メッセージの最大サイズの上限値を参照したり変更したりできる。 この値は、 \fBmq_open\fP(3) に渡す \fIattr\->mq_msgsize\fP 引数に対する上限値として機能する。 \fImsgsize_max\fP のデフォルト値は 8192 バイトで、 最小値は 128 (2.6.28 より前のカーネルでは 8192) である。 \fImsgsize_max\fP の上限はカーネルのバージョンにより異なる。 .RS .IP * 3 Linux 2.6.28 より前のバージョンでは、上限は \fBINT_MAX\fP である。 .IP * Linux 2.6.28 から 3.4 では、上限は 1,048,576 である。 .IP * Linux 3.5 以降では、上限は 16,777,216 (\fBHARD_MSGSIZEMAX\fP) である。 .RE .IP \fImsgsize_max\fP 上限は特権プロセス (\fBCAP_SYS_RESOURCE\fP) では無視されるが、 Linux 3.5 以降では特権プロセスにも \fBHARD_MSGSIZEMAX\fP という上限が適用される。 .TP \fI/proc/sys/fs/mqueue/queues_max\fP このファイルを使って、作成可能なメッセージキュー数のシステム全体での制限を参照したり変更したりできる。 \fIqueues_max\fP のデフォルト値は 256 である。 \fIqueues_max\fP に課される上限値はない。 特権プロセス (\fBCAP_SYS_RESOURCE\fP) はこの上限値を超えてメッセージキューを作成できる。 .SS リソース制限 リソース上限 \fBRLIMIT_MSGQUEUE\fP は、プロセスの実 UID に対応する全メッセージキューが消費する メモリー空間の量に対して上限を設定する。 \fBgetrlimit\fP(2) を参照。 .SS メッセージキューファイルシステムのマウント Linux では、メッセージキューは仮想ファイルシステム内に作成される (他の実装でも同様の機能が提供されているものもあるが、 詳細は違っているだろう)。 以下のコマンドを使うことで (スーパーユーザーは) このファイルシステムをマウントできる: .PP .in +4n .EX #\fB mkdir /dev/mqueue\fP #\fB mount \-t mqueue none /dev/mqueue\fP .EE .in .PP マウントしたディレクトリのスティッキービット (sticky bit) は 自動的にオンとなる。 .PP メッセージキューファイルシステムのマウント後は、ファイルに対して 通常使うコマンド (例えば \fBls\fP(1) や \fBrm\fP(1)) を使って、システム上のメッセージキューを表示したり 操作したりできる。 .PP ディレクトリ内の各ファイルの内容は 1行であり、 キューに関する情報が表示される。 .PP .in +4n .EX $\fB cat /dev/mqueue/mymq\fP QSIZE:129 NOTIFY:2 SIGNO:0 NOTIFY_PID:8260 .EE .in .PP 各フィールドの詳細は以下の通りである: .TP \fBQSIZE\fP キューに入っている全メッセージの合計バイト数 (ただし「バグ」を参照)。 .TP \fBNOTIFY_PID\fP この値が 0 以外の場合、この値の PID を持つプロセスが \fBmq_notify\fP(3) を使って、非同期のメッセージ通知を行うように設定したことを示す。 どのように通知が行われるかは、以下のフィールドにより決定される。 .TP \fBNOTIFY\fP 通知方法: 0 は \fBSIGEV_SIGNAL\fP; 1 は \fBSIGEV_NONE\fP; 2 は \fBSIGEV_THREAD\fP .TP \fBSIGNO\fP \fBSIGEV_SIGNAL\fP に使用されるシグナル番号。 .SS "Linux でのメッセージキュー記述子の実装" On Linux, a message queue descriptor is actually a file descriptor. (POSIX does not require such an implementation.) This means that a message queue descriptor can be monitored using \fBselect\fP(2), \fBpoll\fP(2), or \fBepoll\fP(7). This is not portable. .PP The close\-on\-exec flag (see \fBopen\fP(2)) is automatically set on the file descriptor returned by \fBmq_open\fP(2). .SS "IPC 名前空間" POSIX メッセージキューオブジェクトと IPC 名前空間の相互の影響に関する議論は \fBipc_namespaces\fP(7) を参照。 .SH 注意 System V メッセージキュー (\fBmsgget\fP(2), \fBmsgsnd\fP(2), \fBmsgrcv\fP(2) など) はプロセス間でメッセージをやり取りするための古い API である。 POSIX メッセージキューは System V メッセージキューよりもうまく 設計されたインターフェースを提供している。 一方で、POSIX メッセージキューは System V メッセージキューと比べると 利用できるシステムが少ない (特に、古いシステムでは少ない)。 .PP 現在のことろ (バージョン 2.6.26 時点)、 Linux は POSIX メッセージキューに対するアクセス制御リスト (ACL) に 対応していない。 .SH バグ バージョン 3.5 以降 3.14 未満の Linux では、 \fIqueues_max\fP 上限を増やすことができる最大値として 1024 (\fBHARD_QUEUESMAX\fP) という最大上限値がカーネルにより適用されていた。 この最大上限値は特権プロセスにも適用されていた。 この最大上限値は Linux 3.14 で削除され、 パッチで安定版カーネル 3.5.x から 3.13.x からもこの最大上限値は削除された。 .PP .\" commit d6629859b36d .\" commit de54b9ac253787c366bbfb28d901a31954eb3511 As originally implemented (and documented), the QSIZE field displayed the total number of (user\-supplied) bytes in all messages in the message queue. Some changes in Linux 3.5 inadvertently changed the behavior, so that this field also included a count of kernel overhead bytes used to store the messages in the queue. This behavioral regression was rectified in Linux 4.2 (and earlier stable kernel series), so that the count once more included just the bytes of user data in messages in the queue. .SH 例 各種のメッセージキュー関数を使用した例が \fBmq_notify\fP(3) に記載されている。 .SH 関連項目 \fBgetrlimit\fP(2), \fBmq_getsetattr\fP(2), \fBpoll\fP(2), \fBselect\fP(2), \fBmq_close\fP(3), \fBmq_getattr\fP(3), \fBmq_notify\fP(3), \fBmq_open\fP(3), \fBmq_receive\fP(3), \fBmq_send\fP(3), \fBmq_unlink\fP(3), \fBepoll\fP(7), \fBnamespaces\fP(7) .SH この文書について この man ページは Linux \fIman\-pages\fP プロジェクトのリリース 5.10 の一部である。プロジェクトの説明とバグ報告に関する情報は \%https://www.kernel.org/doc/man\-pages/ に書かれている。